LLMの仕組みと、回答理由の説明。
OpenAIは、学習のルールの設計と、学習で生まれた振る舞いの理解を区別しています。LLMの作り方や計算が分かっても、個々の回答を生んだ内部の働きを説明しきれるとは限りません。本記事では、その理由と回答の採用前に必要な確認を整理します。
LLMの学習・計算の基本は説明できますが、確認した研究でも内部処理には説明しきれない部分があります。AIが語る理由だけで採用を決めず、重要な結果を外部で確かめましょう。
この記事の対象は、ChatGPTなどを支える大規模言語モデル(LLM)です。「非公開で見られないこと」「内部の意味を読み解く難しさ」「回答の正しさ」を分けて考えます。
- 「開発者にも分からない」と聞き、何が不明なのか知りたい人
- AIの説明をどこまで信じ、何を確認すればよいか迷っている人
AIの仕組みは、どこまで分かっているのか?
OpenAIは、ChatGPTを支えるモデルが学習で重みを調整すると説明しており、計算の仕組みと個々の回答に至る内部処理の解釈を分けて考える必要があります。
「ブラックボックス」は、ここでは主に、学習で形成された内部の働きを人が理解できる言葉で説明しきれない状態を指します。「作り方も計算も何一つ分からない」という意味ではありません。
対象はChatGPTなどを支える大規模言語モデル
LLMは、入力された文章の文脈から、次に続くトークンの確率を推定するモデルです。トークンは処理上の単位で、必ずしも単語一つと一致しません。
ChatGPTはサービス名で、その中で使われるモデルと同じものではありません。この記事はサービスの料金や操作画面ではなく、LLMの内部を理解する難しさを扱います。生成の基本を補うなら、LLMが文章を生成する基本の流れも参照できます。
出典:GoogleのLLM教材、OpenAIのモデル開発説明
学習方法と数値計算は説明できる
モデルの構造や学習の方法、重みを使う数値計算は、説明できる仕組みです。重みとは、計算の結果に影響する、学習で調整される数値を指します。
一方、「この内部の数値がどんな意味を表し、なぜこの答えへ寄与したのか」という説明は別の課題です。数値の変化を記録できることと、その変化を人に分かる意味や因果へ対応づけることには隔たりがあります。
OpenAI公式投稿|内部の働きを理解する研究
OpenAIは、小規模モデルをより調べやすくする研究の発表に合わせて、言語モデルの複雑な内部構造を完全には理解していないと説明しています。
投稿の原文抜粋・日本語訳
OpenAI(@OpenAI)|
Language models like the ones behind ChatGPT have complex, sometimes surprising structures, and we don’t yet fully understand how they work.
日本語訳:ChatGPTの背後にある言語モデルには複雑で、時に意外な構造があり、私たちはその働きをまだ完全には理解していません。
英語は投稿の抜粋、日本語訳は当サイトによるものです。Xで投稿全文を見る
前後の本文で区別した「学習・数値計算」と「内部の意味・因果の説明」のうち、投稿は後者の難しさを示しています。研究原典でも、より高性能なモデルまでこの方法が広がるかは今後の課題とされています。
重みの公開と内部の解明は違う
重みが公開されていても、内部の意味や回答までの因果が解明済みとは限りません。公開は内部を調べる入口になっても、解釈を自動的に完成させるものではありません。
Anthropicは2025年に、重みを公開したモデルにも使える回路追跡のツールを公開しました。内部を調べる道具が必要なこと自体が、「見られること」と「分かること」の違いを示しています。重み、コード、学習データの公開範囲も、それぞれ別に確認する必要があります。
開発者もAIを説明しきれない3つの理由
OpenAIは、ニューラルネットワークの学習規則を設計することと、学習で生じる具体的な振る舞いを理解することを区別しています。
理由は単に「数が多すぎるから」だけではありません。以下の三つは、原典を踏まえて本記事が整理した、説明の難しさの要因です。業界共通の公式分類ではありません。
回答の規則をすべて手で書くわけではない
学習によって重みと入力への反応が形成されるため、開発者は作った過程を知っていても、個々の内部の働きを改めて調べる必要があります。
一つの内部単位が複数の特徴に関わる場合がある
単純化した研究モデルでは、複数の特徴が限られた次元に重なって表現されることが示されています。特徴とは、モデルの内部で表現される、入力の性質や概念に関わるものです。
内部の単位と意味が「一つにつき一つ」で対応するとは限らないため、一箇所の値だけ見て意味を決めるのは難しくなります。この重なりはsuperpositionと呼ばれますが、量子の重ね合わせの話ではありません。単純化した実験結果を、あらゆるLLMの内部状態へそのまま広げることもできません。
出典:Toy Models of Superposition(研究論文)
数値の変化だけでは、回答の原因は分からない
内部の値が答えと一緒に変化しただけでは、その値が答えを生んだ原因だとは言い切れません。回答への寄与を調べるには、内部へ介入したときの変化など、説明を確かめる作業が必要です。
Anthropicの回路追跡研究も、内部の一部を置き換えたモデルなどを用い、説明した経路を検証しています。ただし手法は不完全で、元の計算をすべて再現するものではありません。「計算を実行できる」から「その働きを網羅的に説明できる」へは、自動的に進めないのです。
AI自身の理由説明は信頼できるのか?
Anthropicは、Claude 3.7 SonnetとDeepSeek R1のヒント付き選択問題で、回答に影響したヒントを推論の説明に記載しない例を報告しています。
通常の理由説明・CoT・内部状態は別の情報
回答後に生成された理由の文章、推論の途中で生成されるCoT、内部の数値状態は、それぞれ異なります。CoTはChain-of-Thoughtの略で、推論の過程を文章の形で表したものです。
画面に文章が表示されても、内部の全計算をそのまま読み出した記録とは限りません。説明文のどの部分を、どの方法で検証したのかまで見て、根拠の強さを判断する必要があります。
ヒントの影響がCoTに現れなかった実験
ヒントを与える選択問題の実験では、モデルの回答がヒントに影響されたのに、その影響がCoTに書かれない例がありました。説明に現れない要因が、回答へ関わる場合があるという結果です。
これは特定モデルと実験条件で得られた結果です。「AIの説明はすべて虚偽」「普段の質問も同じ割合で誤る」とは言えません。また、通常のチャットで回答後に理由を聞く場面を、同じ実験として扱うこともできません。
出典:AnthropicのCoTの忠実性研究、実験条件を示した論文
内部状態の自己報告にも条件と限界がある
Anthropicの2025年の実験では、Claude Opus 4・4.1などが、内部へ加えた概念を報告できる例もありました。ただし、報告する能力は限定的で不安定とされています。
自己説明をすべてでたらめと決めつけるのも、必ず正確な内省と見なすのも、この結果の範囲を超えます。人工的に概念を加えた研究の条件と、日常の回答について理由を尋ねる条件は分けて読む必要があります。
AIのブラックボックス研究はどこまで進んだ?
Anthropicは、2026年5月に内部の数値状態を文章へ変換するNLA研究を発表しましたが、その説明にも誤りや検証上の限界があるとしています。
今回確認した原典の範囲では、特定の内部表現や経路を調べる研究は進んでいますが、全モデル・全回答の説明が完成したとは言えません(2026年10月4日確認)。以下のモデル名は研究対象であり、現在選べるモデルの一覧ではありません。
特定の問いで、中間の特徴が見つかった
Anthropicは、Claude 3.5 HaikuにDallasがある州の州都を尋ねる課題で、DallasからTexas、そしてAustinへつながる内部の特徴を調べました。回答の間に、州に関わる中間の特徴が見つかった一例です。
図の地理帳は中間概念を表すための編集上の表現です。モデルが実際に本を開いたという意味ではありません。研究の経路図も元の計算すべてを表すわけではなく、特定課題で見つかった部分的な説明です。
出典:Anthropicの研究紹介、Claude 3.5 Haikuの分析
説明しやすいモデルや、内部状態を文章化する手法
内部の経路を読みやすくするモデルや、数値状態を文章へ変換する手法も研究されています。OpenAIの2025年の研究は、小規模なモデルで疎な回路を用いる方法を調べたもので、現在のChatGPTを全面的に説明した成果ではありません。
Anthropicの2026年のNLAは、内部状態から説明文を作り、その説明から内部状態を再構成する手法です。再構成できることが、説明の意味の正しさをすべて保証するわけではありません。公式発表も説明の誤りや費用などの限界を示しています。
出典:OpenAIの疎な回路の研究、AnthropicのNLA研究
Anthropic公式投稿|内部状態を文章に変換するNLA
2026年5月に発表されたNLAの公式告知です。内部を文章で調べる研究が進む一方、生成された説明にも確認が必要です。
投稿の原文抜粋・日本語訳
Anthropic(@AnthropicAI)|
Here, we train Claude to translate its activations into human-readable text.
日本語訳:この研究では、Claudeが内部の活性(数値状態)を、人間が読める文章へ変換するよう訓練します。
英語は投稿の抜粋、日本語訳は当サイトによるものです。Xで投稿全文を見る
この研究では、内部の数値状態を説明文に変換するモデルと、その説明から数値状態を再構成するモデルを訓練しています。普通のチャットで理由を尋ねる場面との違いは、内部状態そのものを分析の入力にする点です。説明の誤りに備え、研究者も別の方法で結果を照合しています。出典:AnthropicのNLA研究。
部分的な解明を、全モデル・全回答へ広げない
研究成果を読むときは、対象モデル、課題、調べた内部の範囲、手法の限界を一緒に確認する必要があります。ある問いの経路が分かったことは、同じモデルの別の答えまで説明できたことを意味しません。
「AIの何%が解明されたか」という一つの数値は、本記事で確認した原典からは示せません。全回答を説明できる時期も未確定です。研究が進んだかどうかは、説明できた対象と、残った条件をセットで見て判断しましょう。
AIの回答を採用・保留する基準は?
NISTは、AIの説明が処理を正しく反映することと結論が正しいことを別の概念として扱っており、本記事では結果の照合可能性と誤りの影響から利用判断を整理します。
説明が丁寧でも、結果の正しさを確認したことにはなりません。逆に、内部を完全には説明できなくても、手元の結果を外部の資料や計算で確かめられる場面があります。
分かる範囲から必要な確認を選ぶ
確認できる対象ごとに、次に必要な作業は変わります。以下はLLMを使う読者向けに本記事が作成した判断表です。公式の認証基準や、安全を保証する表ではありません。
横にスクロールして5列を確認できます。確認できた事実と、その事実だけでは言えないことを一組で読んでください。
| 確かめたいこと | 分かる・確認できること | それだけでは言えないこと | 次に行う確認 | 利用判断 |
|---|---|---|---|---|
| 学習・計算の仕組み | 重みを調整する学習や、数値計算の基本 | ある回答に至る内部の意味・因果をすべて説明できること | 主張の正しさと、用途に必要な根拠を別に確かめる | 仕組みを知ったことだけで回答を採用しない |
| 重み・コードの公開 | 公開範囲にある情報を調べられること | 内部の意味が解明済みであること。学習データも公開されていること | 何が公開され、どの対象まで分析されたかを確認する | 公開の有無だけで正しさや安全性を決めない |
| AIが語る理由 | モデルが生成した説明の内容 | 説明が内部処理を忠実に記録していること | 理由に出た出典・計算・前提を外部で照合する | 説明は確認の手掛かりとし、採用の証明にしない |
| 特定課題の研究成果 | 特定モデル・条件で調べられた特徴や経路 | 全モデル・全回答へ同じ説明が当てはまること | 対象モデル、課題、介入・検証の方法と限界を読む | 研究の適用範囲を超えて手元の回答を保証しない |
| 手元の回答の採用 | 外部資料や再計算で一致を確認できた部分 | 未確認の部分まで正しいこと。利用全体に危険がないこと | 必要な主張・前提・数値を元資料や再計算で照合し、未確認・不一致の部分を除く。影響の大きい判断では、必要な専門的確認と人の最終判断も確保する | 確認できた範囲を用途に応じて採用。必要な照合・専門的確認・人の最終判断を行えなければ保留 |
根拠:NISTの説明可能性の原則、回路追跡の限界、CoTの忠実性研究。
採用を保留する条件:重要な事実を照合できない、誤りの影響が大きいのに必要な専門的確認ができない、人が最終判断する体制がない場合は、AIの説明だけで結論を採用しないでください。
結果の照合と、採用を保留する条件
文章の言い換えや発想の下書きは、人が見直す材料として使えます。一方、事実や計算を含む成果物は、採用に必要な部分を元資料や再計算で確かめてから使う、というのが本記事の提案です。
例えば、AIが資料を要約したら、重要な数値や条件を元資料と照合します。引用元が示されても、実在するか、その箇所が主張を支えるかを確かめます。間違いを発見する方法がないまま、影響の大きい判断をAIへ任せることは勧めません。
FAQ|ブラックボックス性から誤回答や意識を判断できるか?
Anthropicは、2026年の内部表現研究で機能的な性質と主観的体験を区別し、Claudeが人間のように体験したり感じたりすることを実験が示したとはしていません。
内部の説明が難しいことは、誤回答の有無や意識の有無をそのまま決める根拠にはなりません。ここでは本記事の範囲に関わる二つの疑問に答えます。
ブラックボックスだと必ずハルシネーションが起きる?
いいえ、内部を説明しきれないことと、ある回答が誤っていることは別に判断します。説明の忠実さと結論の正しさを分けるNISTの整理からも、ブラックボックス性だけで個々の答えの真偽は決まりません。
手元の回答について、出典や計算を照合してください。誤回答そのものの仕組みと確認方法は、誤回答が起きる場面と照合の進め方で補えます。
内部状態の説明はAIの意識の証拠になる?
いいえ、内部の情報を報告する機能があることだけでは、主観的な体験の存在は分かりません。Anthropicの2026年の研究も、機能的な性質を調べた成果と、人間のように感じることを区別しています。
逆に、「内部を説明できないから意識がある」と結論づける根拠にもなりません。意識については、どの定義に対し、何を観測して、どこまで言えるのかを別の問いとして扱う必要があります。
まとめ|次のAI回答で何を確かめるか
学べるブログは、NISTが示す説明と結論の正確さの区別を踏まえ、AI回答の重要な主張の照合から始め、必要な確認を終えてから採用することを提案します。
AIのブラックボックス性を理解する入口は、作り方や計算を知ることと、学習した内部の意味や因果を説明することを分けることです。研究の成功例やAI自身の説明だけでは、手元の回答の正しさは保証されません。
次にAIの回答を使うときは、判断に効く主張を一つ選び、元資料や計算で照合してください。誤りの影響が大きいのに必要な確認ができない場合は、採用を保留し、人が判断できる材料をそろえましょう。
新しいモデルの内部説明を利用判断の根拠にしたくなったときは、そのモデル・課題まで研究の適用範囲が広がったか、説明の検証方法と限界を再確認してください。
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