AIに深呼吸と指示する効果|OPRO研究の結果と採用条件の判断表

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指示文は、得点と条件で選ぶ。

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文字量と図表からの目安です。操作・実践の時間は含みません。

Google DeepMindのOPRO研究(2023年)では、PaLM 2の算数課題で「深呼吸」を含む指示文が高成績でした。この結果だけでは語句単独の効果や現在のAIへの適用は確定できず、採否は同じモデル・用途で比較して決めましょう。OPRO論文の実験結果

「AIに深呼吸してと言えばよい」という話を、自分の使い方へ取り入れる前に条件を整理しましょう。前半では研究の結果と限界、後半では指示文の採用・保留・見送りを決める判断表と比較手順を扱います。

こんな人におすすめ

  • ChatGPTなどへ「深呼吸して」と付ける意味を知りたい人
  • 文章作成や要約で、定型句を残すか自分の基準で判断したい人
指示文の候補と評価記録を対応させる模式図。語句だけの効果や実際の得点を示すものではありません。

AIへの「深呼吸」は、研究で効果が示されたのか

Google DeepMindのOPRO論文は、事前学習済みPaLM 2-LのGSM8Kテストで「深呼吸」を含む指示文の正答率80.2%を報告していますが、語句単独の効果は切り分けていません。読む際には、対象モデル、指示文全体、評価に使った問題を一緒に確認する必要があります。原著の表1・表4と実験設定

80.2%の対象モデル・問題・比較条件

80.2%は、当時のPaLM 2-Lを使った算数文章題の正答率です。GSM8Kとは、小学校相当の算数文章題を集めたデータセットで、最終評価にはテスト問題1,319問が使われました。GSM8Kの公開データ

指示文の候補を作ったのはPaLM 2-L-IT、問題に答えたのは事前学習済みPaLM 2-Lです。候補の改善には、学習用問題から固定して選んだ3.5%の部分集合を使っています。また指示は、回答の冒頭を表すA:の直後へ置く「A_begin」という条件でした。普段のチャットへ日本語で入力する状況と同一ではありません。原著§5.1・§5.2・表4

表の右側が見えない場合は、横へスクロールできます。

GSM8Kテストにおける指示文と正答率
追加した指示文正答率
追加の指示文なし(空文字列)34.0%
Let’s think step by step.71.8%
Take a deep breath and work on this problem step-by-step.80.2%
回答モデル:事前学習済みPaLM 2-L。評価:GSM8Kテスト1,319問。指示位置:A_begin。80.2%の指示文はPaLM 2-L-ITで探索したものです。表4は組み合わせごとの最高テスト正答率の指示文を掲載しており、平均的な改善幅ではありません。出典:原著の表1・表4(2026年9月16日確認)

最後の指示文は、筆者訳で「深呼吸して、この問題に段階的に取り組んでください」に当たります。「Let’s think step by step.」との差は、80.2−71.8=8.4ポイントです。これは掲載値からの計算であり、「深呼吸」という語句だけによる改善幅ではありません。

「深呼吸」だけの効果が分からない理由

比較されているのは、表現の異なる指示文全体だからです。「深呼吸」の有無だけを変え、残りの語句と条件をそろえた比較として、この表を読むことはできません。原著の比較対象となった指示文

したがって、「AIが落ち着いたから」「考える時間が増えたから」といった仕組みも、この結果だけでは断定できません。同様に、日本語訳や現在のChatGPT、文章の要約で同じ改善が得られるかも別の問いです。「効果がない」と決めつける材料でもなく、適用範囲を分けて読むのが妥当です。

OPROは、得点から指示文をどう改善するのか

OPROの指示文最適化は、過去の指示文と正答率をもとに候補を作り、問題への回答を正解データと照合した結果を次の探索へ返す仕組みです。OPROとは、Optimization by PROmptingの略で、言葉で表した最適化課題を大規模言語モデルに扱わせる手法です。原著の手法説明

候補を作るモデルと、問題に答えるモデル

OPROでは、候補を作る役割と、候補を使って問題に答える役割を区別します。前者が最適化役のLLM、後者が原著でいうスコアラーLLMです。「スコアラー」という名前でも、この実験での仕事は指示に従って問題へ回答することです。原著§5のoptimizerとscorer

最適化役へ渡すのは、候補の指示文と、その候補が得た得点などの情報です。改善する対象は入力する指示文であり、この手続きで回答モデルの重みを学習し直すわけではありません。原著の最適化手順

正解との照合結果を、次の候補づくりへ返す

算数課題の得点は、モデルの回答を正解データと照合して算出します。AIが「よい回答ができた」と自己申告するだけの評価ではありません。回答から結果を取り出して正解と比べる処理は、公開コードでも確認できます。OPROの回答評価コード

回答を正解データと照合し、得点の記録を次の候補づくりへ返す模式図。動作周期や欄の数は実験の速度・問題数を表しません。

その得点を指示文と組み合わせて履歴へ戻し、次の候補づくりに使います。記事後半で応用したいのは、特定の定型句よりも、この「候補を作る→結果を確かめる→記録を返す」という考え方です。原著の最適化ループ

一方、同じ評価例へ合わせすぎる可能性には注意が必要です。原著の基本設定では独立した検証用データを設けておらず、過適合についても検討しています。公開された最高値を、別の問題でも得られる平均的な効果として扱わないようにします。原著§5.4の過適合に関する検討

「深呼吸」を自分の指示文に採用する条件は何か

OpenAIの推論モデル向けAPIガイドは、段階的に考えるよう求める定型句が性能を改善しない場合や、妨げになる場合があると説明しています(2026年9月16日確認)。これは「深呼吸」の効果を測った実験ではありませんが、指示の向き不向きをモデルごとに考える根拠になります。OpenAIの推論モデル向け指針

本記事では、未確認の定型句を一律に追加するより、目的に合う改善が確かめられた場合に残すことを勧めます。下表は筆者の判断基準です。対象は同じモデル・同じ用途で比較する指示文で、論文が示した採用基準や、改善を保証する手順ではありません。

右端の「採否」が見えない場合は、表を横へスクロールできます。

「深呼吸」を含む指示文を採用するか決める判断表筆者の判断基準。同じモデル・用途・評価例・出力条件で比較し、必須条件と許容する確認負担を先に決めます。参照した公式指針は確認。
状況確かめる点比較条件評価根拠採否
まだ比べていない何を改善したいかを決める現在の指示文を基準にする自分の作業での比較結果がない保留
よしあしの基準が曖昧正解・参照資料・必要な条件を用意できるか印象やAIの自己申告だけで比べない照合先と評価基準が不足している保留
別の評価例でも改善を確認候補が必須条件を満たし、目的の指標が改善するか同条件で比較し、今回の改善に使っていない例でも確認回答と判定理由で改善を説明でき、確認負担も許容内範囲を限定して採用
一部の例だけよい・結果が揺れる例への合わせすぎや条件の違いがないかモデル・資料・指示の他の部分をそろえ直す改善が続くと判断する材料が足りない保留
改善なし・必須条件違反・負担が許容外候補を残す利点と、事前に決めた許容条件を確かめる基準の指示文と同じ目的で評価する比較記録で改善なしと判断できる、または必須条件・許容条件を満たさない見送り
評価の目的・例・基準を先に定める考え方は、OpenAIの評価指針を参照しています。採否の分け方は筆者によるものです。

たとえば要約では、原文にない断定を加えないことを必須条件にできます。文体が読みやすくなっても、この条件を外した候補は見送ります。確認負担の増加が許容内かは先に決め、改善の有無が判別できない場合は保留します。

指示文の効果を、普段の作業でどう比べるか

OpenAIの公式評価指針は、目的・評価例・評価基準を定めて結果を比較する流れを示しており、本記事では、その考え方を日常の指示文比較に応用します。以下は筆者が実用向けに組み立てた手順で、OPROの実験をそのまま再現するものではありません。OpenAIの評価設計の指針

語句の有無か、指示文全体かを先に決める

「深呼吸」の有無だけを比べるなら、基準の指示文を複製し、片方へ「深呼吸して。」だけを追加します。指示文全体を直す比較では、改善を語句単独の効果とは呼べません。

基準の依頼には、用途・資料・出力形式を明記します。迷う場合は、目的・前提・出力形式から指示文を整える方法も参考になります。モデル・資料・会話履歴・変更できる設定をそろえ、両方を同じ開始条件で実行します。

同じ評価例と基準で結果を記録する

指示文を直す前に、評価例と採点の根拠を用意します。たとえば要約なら、原文にある重要事項を残しているか、原文にない断定を加えていないか、指定形式を守るかを別々に見ます。これは筆者の評価例であり、研究で測定された要約性能ではありません。

各指示文へ同じ資料を渡し、回答と判定理由を記録します。結果が揺れる場合は、一度だけの成功で決めず、同じ条件で追加比較するか、採用を保留します。評価基準に照らして人が確認する工程も残します。公式評価指針の基準設定と人による確認

評価結果を渡して修正候補を作る

候補の修正には、実際の回答と評価結果を渡します。「もっとよくして」だけで依頼するより、何が満たされず、何を維持したいのかが伝わる形にします。下の依頼文は筆者作成のテンプレートで、論文の原文プロンプトや公式の推奨設定ではありません。

評価結果から修正候補を作る依頼文

各欄へ自分の記録を入れて使います。評価結果には、実際に確認できた回答と判定理由を書いてください。

指示文の修正候補を1つ作ってください。
以下の実際の評価結果を使い、失敗した条件を改善してください。

用途:
現在の指示文:
比較条件(モデル・資料・会話履歴・変更可能な設定):
評価基準と照合先:
実際の回答と評価結果:
変更してはいけない条件:
今回変えてよい範囲(特定の語句だけ/指示文全体):

出力は「修正候補」と「変更箇所・対応する評価結果」に分けてください。
記録にない得点や改善率を作らないでください。
情報が不足している場合は、その不足を明記してください。
候補の効果は未確認として扱い、採用前に何を比較するかを示してください。

依頼文の原文だけをコピーします。

コードで試す場合は、OPROの公開リポジトリを確認できます。ただし公式にサポートされたGoogle製品ではなく、古いモデルや依存関係の例をそのまま実行できるとは限りません。Google Cloudの一覧ではtext-bisonは2025年4月21日に廃止とされていますが、これはPaLM 2のすべての利用経路を示す情報ではありません。利用するモデルの提供状況とAPI費用は実行前に確認してください。Google Cloudのモデル提供履歴(2026年9月16日確認)

改善に使っていない評価例で確かめる

採用前には、今回の指示文の改善に使っていない評価例でも確かめます。「使っていない」とは、候補づくりや修正の材料にしていないという意味です。モデルの事前学習に含まれていないと保証するものではありません。

同じ指示文を、今回の改善に使っていない評価例でも確認する場面。論文の実験をそのまま描いた図ではなく、筆者が実用向けに組み立てた模式図です。

比較の前に残しておいた評価例を、基準の指示文と候補の両方で試します。ここで候補を直したら、その例も改善に使った例になります。別の例を用意できなければ、採用を保留します。

まず、現在の指示文・評価例・判断基準を一組、記録してください。「深呼吸」という言葉を残すかは、その記録を基準に比較して決められます。研究の高成績を知ることから、自分の作業で改善を説明できることへ進むための最初の行動です。

使うモデルや用途、モデル向けの公式指針が変わったときは、以前採用した指示文も同じ評価基準で見直してください。

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