AI RESEARCH · 条件の渡し方
ChatGPTへの指示は、決まっている条件をまとめ、未確定の条件は対話で整理する使い分けを本記事では提案します。
根拠にするのは、同じ依頼条件の一括提示と分割提示を比べた「LLMs Get Lost In Multi-Turn Conversation」です。研究で報告された性能低下は、実験当時のモデルと英語の対象タスクに限られます。日本語での依頼にも同じ低下率が当てはまるとは言えません。論文の比較条件・適用範囲(§4・§8)
こんな人におすすめ
- 条件を最初に全部書くか、少しずつ伝えるか迷う
- 追加指示をしても、以前の前提が回答に残る
- 対話を続けるか、条件を整理してやり直すか決めたい
ChatGPTへの指示は一度にまとめる?依頼の状態で選ぶ
OpenAIは、明確で具体的な依頼と複雑な作業の分割を案内しており、本記事では条件の確定度から依頼方法を選ぶ判断表に整理します。条件を分けて伝えることと、作業の工程を分けることを、まず区別しましょう。条件の明確化/複雑な作業の分割(2026年9月16日確認)
分ける対象を区別する
条件の分割は、一つの成果物に必要な制約を、回答を挟みながら後から足すことです。たとえば、案内文を依頼し、回答後に「初心者向け」、さらに「専門用語を避ける」と伝える場合です。
工程の分割は、最初に目的や制約を共有したうえで、「構成を決める→本文を書く→見直す」と作業を進めることです。この二つを同じ「小分け」と呼ぶと、研究結果を取り違えます。以下の案内文や執筆工程は違いを説明するための例で、論文の実験課題ではありません。
条件の確定度を判断表に当てはめる
最初に、今の依頼がどの状態に近いかを選びます。複数に当てはまる場合は、⑤ずれが残る→④条件が変わった→②条件が未確定→③工程が多い→①条件が確定の順で確認してください。この順序は本記事の判断補助で、論文が検証した優先順位ではありません。
表は横にスクロールできます。「見送る条件」まで確認してください。
| 依頼の状態 | 最初にそろえる条件 | 会話で追加する内容 | 次に選ぶ進め方 | 見送る条件 | 根拠区分 |
|---|---|---|---|---|---|
| ①条件が決まった一つの依頼 | 目的、対象、必須条件、出力形式 | 回答を確認して分かった修正点 | 確定条件をまとめて渡す | 未確定の条件を、埋めるためだけに決めつけない | 研究・公式助言を踏まえた本記事の提案 |
| ②相談しないと条件を決められない | 現時点の目的と、決まっていない点 | 比較したい選択肢、決定した条件 | 対話で整理し、実行前に確定条件をまとめる | 探索中の案を、そのまま最終条件として扱わない | 本記事の提案。探索対話での効果量は未検証 |
| ③条件は決まっているが工程が多い | 全体の目的、共通の制約、工程ごとの成果物 | 各工程の確認結果と次の作業 | 共通条件を共有して工程を分ける | 後工程に必要な既知の条件を、意図的に伏せない | 公式助言を踏まえた本記事の提案 |
| ④途中で条件を変えた | 現在有効な条件、変更点、撤回した条件 | 変更が反映されていない箇所 | 有効な全条件を再提示し、回答を照合する | 追加条件だけを送り、旧条件の扱いを曖昧にしない | 再提示実験を参考にした本記事の提案 |
| ⑤以前の仮定に沿う回答が残る | 整理し直した条件と、AIが補った仮定の区別 | 必要な確認事項。整理結果は人が点検 | 条件を点検し、新しい会話での再依頼を検討する | 条件が欠けた要約を移さない。新規会話でも改善は保証されない | 著者の提案+本記事の確認手順 |
たとえば、案内文の読み手と文体が最初から決まっているなら①です。読み手自体を相談して決めたいなら②で整理し、本文を書く前に確定条件をまとめます。工程を分ける③でも、誰向けに何を書くかという共通条件は最初に共有できます。
この表は成功率を予測する表ではありません。「何ターンになったか」だけで切り替えず、条件の確定・変更と、回答に残るずれを確認するために使ってください。整理や待機の指示を加えても、回答の照合は必要です。
平均39%低下は何を比べた結果?
Microsoft ResearchとSalesforce Researchの会話分割研究は、英語の生成タスクで、対象モデルの平均性能が全条件の一括提示に対して分割提示で39%低下したと報告しています。「LLMs Get Lost In Multi-Turn Conversation」は2025年に初公開され、本記事ではICLR 2026会議版の数値と図表番号を用います。研究の公式紹介/初公開の書誌情報
同じ条件を使った3つの比較方法
比較したのは、同じ意味の条件を最初にそろえる場合と、複数のターンへ分ける場合です。600件の元の依頼、8系統・15モデル、6種類の生成タスクを用い、合計20万件超の模擬会話を評価しています。20万人がチャットを操作した利用者調査ではありません。公式リポジトリの研究概要/論文§3・§4
表は横にスクロールできます。
| 方式 | 条件を渡すタイミング | 途中の回答の有無 | 比較で確かめること |
|---|---|---|---|
| Full 元の一括提示 | 元の依頼の全条件を最初に渡す | 条件の提示途中にはない | 条件がそろった状態の基準 |
| Concat 再連結した一括提示 | 分割用に書き換えた条件を再びまとめ、最初に渡す | 条件の提示途中にはない | 書き換えの影響を、会話へ分ける影響と区別する |
| Sharded 分割提示 | 同じ意味の条件を複数ターンへ分けて渡す | 各ターンに回答が入る | 不完全な条件での回答を挟む提示の影響 |
中心の6タスクは、Pythonコード、SQL、API関数呼び出し、数学、データからの文章生成、要約です。前半の4タスクと後半の2タスクでは採点方法が異なるため、全体の得点を一律に「正答率」と読み替えないことが大切です。なお、Phi-4とOLMo2は要約の評価対象から除かれています。課題・採点・対象モデル(§4・付録I)
平均得点と回答のばらつきを分けて読む
39%は、FullからShardedへ条件を変えたときの平均性能の相対低下です。39ポイントの低下でも、現在のChatGPTで39%の回答が誤るという意味でもありません。対象モデルとタスクをまとめた実験上の結果です。Table 1・§5.1
もう一つの結果は、同じ依頼を繰り返したときの得点の散らばりです。論文の「Unreliability」は、10回の反復で得られる得点の90パーセンタイルと10パーセンタイルの差で定義されます。この指標は分割提示で平均112%増加しました。誤答率やハルシネーションの確率が112%増えた、という測定ではありません。指標の定義と結果(§4.2・§5.2)
平均だけでなく、うまくできる回とできない回の差が広がった点が読みどころです。ただし、この数値から一人の利用者の次の回答の品質や、再試行が何回必要かを予測することはできません。
以前の回答に残る仮定をどう解釈するか
著者は、情報がそろわない段階で仮定を置いたり、後の回答が以前の回答に依存したりする挙動を分析しています。追加条件を読んで一部を修正しても、初期の仮定に沿う部分が残る場合がある、という説明です。挙動の分析(付録F)
条件を追加して一部を直しても、以前の仮定に沿った部分が残る場合があります。
ここでいう「思い込み」は挙動を説明する比喩です。人間と同じ心理を持つことや、原因が記憶容量だけにあることを証明した研究としては扱いません。上の図も、観測された問題を説明する模式図です。
日本語・創作・現行モデルへ広げられる範囲
この研究だけでは、日本語の執筆や日常相談、現在提供されるすべてのモデルで同じ低下が起こるとは言えません。主実験は英語のテキストを使う分析的な課題であり、自然な利用者との対話や創作全般を代表するものではないためです。研究の限界(§8)
補足のドイツ語から英語への翻訳では、同様の性能低下は観測されませんでした。この例外も、「会話を分ければ必ず悪くなる」とは結論できない理由です。逆に、翻訳全般で安全だという保証にもできません。翻訳の補足実験(付録G.3・Table 8)
また、論文中のモデル名は実験当時の特定の版を指します。API等を用いたモデルの評価と、メモリなどの機能を含むChatGPTという製品全体の評価は分けて考えてください。実験したモデルの版と利用経路(付録I)
依頼の渡し方とは別に、使う機能自体を整理したい場合は、ChatGPTの機能と使い方を目的別に探す案内も参照できます。
条件を追加して回答がずれたら、どう立て直す?
Microsoft ResearchとSalesforce Researchの論文は、分散した条件をまとめ、新しい会話で再依頼する方法を提案していますが、毎回の改善を保証するものではありません。まず、同じ会話で全条件を再提示した実験と、新しい会話で試す提案を分けて確認します。論文§6・付録G.1・G.4
全条件を再提示した実験で改善した範囲
論文のRecapは、履歴を残したまま、最後に誤答を指摘し、全条件を再提示して再試行を求める実験です。条件を一文追加するだけの操作とも、履歴のない新規会話とも異なります。
GPT-4o(gpt-4o-2024-11-20)の4タスク平均は、Fullが93.0、Shardedが59.1、Recapが76.6でした。再提示によって得点は上がりましたが、一括提示の水準には届いていません。Recapの検証はGPT-4oとGPT-4o-miniの2モデル・4タスクに限られます。再提示実験(付録G.1・Table 5)
この結果が支えるのは「全条件を再提示して改善した例がある」までです。以下の整理用依頼文の効果や、日本語での改善率を測った結果ではありません。
確定条件と変更点を整理する
本記事では、追加指示を重ねる前に、現在有効な条件と撤回した条件を分けて書き出す方法を提案します。情報落ちや古い仮定の混入を見つけやすくすると考えられますが、この確認手順自体は論文で検証された方法ではありません。
- 残す条件を集める。目的、読み手、必須事項、出力形式を、元の発言から拾います。
- 変更・撤回を分ける。以前の条件のどれを置き換えたか、何がまだ決まっていないかを明記します。
- 整理結果を原文と照合する。AIが補った仮定を、利用者が決めた条件として混ぜていないか確認します。
会話から条件を拾う補助として、次の依頼文を使えます。これは条件を整理するための筆者作成例です。整理結果をそのまま最終条件とせず、元の発言と見比べてください。
会話に散らばった条件を整理する依頼文
この会話の依頼条件を、次の順で整理してください。
1. 目的・対象
2. 現在有効な確定条件と必須事項
3. 変更・撤回した条件
4. 未確定事項と確認が必要な点
5. 求める出力形式
私が明示した条件と、あなたが補った仮定を区別してください。仮定は確定条件へ混ぜず、別に列挙してください。
条件が矛盾する場合は、勝手に解決せず矛盾を示してください。不足情報を推測で埋めないでください。
各条件には、照合できるよう根拠となる私の発言を短く添えてください。
今回は条件の整理だけを行い、元の依頼の実行はまだ始めないでください。依頼文だけをコピーします。
照合では、必須条件の抜け、撤回済み条件の復活、AIによる推測の混入を確認します。判断できない箇所は「未確定」に戻し、誰が何を決める必要があるかを残してください。AIによる整理の正確さも、ここでは保証しません。
新しい会話へ移す前に確認すること
新しい会話へ移す場合は、人が点検した有効な条件を一つの依頼にまとめ、未確定事項を添えて渡します。著者はこの方針をconsolidate before retrying
(再試行の前に条件をまとめる)と表現しています。著者の利用者向け提案(付録G.4)
新しい会話で回答を得た後も、出力を必須条件と照合します。旧条件が残るのか、別の条件が落ちるのかを見て、修正点を具体的に伝えましょう。相談中で条件がまだ定まっていないなら、まず未確定事項を決めるところへ戻ります。
FAQ|会話の回数や進め方に万能ルールはある?
Microsoft ResearchとSalesforce Researchの論文は、全用途に共通する安全なターン数や、待機指示だけで失敗を防ぐ方法の有効性を確立していません。運用上の目安を置く場合も、研究が示した閾値とは区別してください。実験範囲と補助指示の検討(§8・付録G)
何ターンで新しいチャットに切り替えるべき?
この論文から、何ターンで新しいチャットへ切り替えるべきかという、全用途に共通する回数は決められません。実験で用いた会話の長さを、そのまま日常利用の上限にはできないためです。会話生成の設計と限界(§3・§8)
本記事では、回数より「有効な条件が整理できているか」「撤回した前提が回答に残るか」を見る運用を提案しています。
「条件を全部伝えるまで待って」で解決する?
「条件を全部伝えるまで待って」という一文で会話分割の問題を解消できるとは、この論文の実験からは言い切れません。論文は不明点の確認や早すぎる回答を避ける補助指示も検討していますが、任意の待機文言の万能性を示したものではありません。補助指示の実験(付録G.2・Table 6)
待機を求める場合も、実行の前に全条件がそろったことを確認し、完成した回答を条件と照合する使い方を提案します。
まとめ|次の依頼で何を先に決める?
OpenAIは、回答を確認して依頼を調整する反復的な改善を案内しており、本記事では選んだ進め方で試した回答を、確定条件と照合することを提案します。研究の平均低下率を自分の作業の予測値にせず、依頼の状態を確認するところから始めましょう。反復的な改善の案内(2026年9月16日確認)
次の依頼では、目的・必須条件・未確定事項を先に書き分けてください。決まっている条件はまとめ、まだ決められない部分は対話で整理します。回答がずれたら、追加条件だけを送る前に、現在有効な条件と変更点を確認します。
利用するモデルやメモリの仕様が変わったとき、または同じ条件を扱う追試が公表されたときは、この判断表の適用条件を見直してください。
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